超高層建築の世界#8 Treet/トリート
- TheWorldofSkyscraper
- 2020年4月15日
- 読了時間: 8分
SKYSCRAPER’S WORLDへようこそ
管理人のBKBこと、かわさきです。
このブログでは世界の超高層建築を紹介していきます。
早速ですが, 今日ご紹介するのがコチラ
トリート(ザ・ツリー)
ノルウェーはベルゲンにある木造の高層レジデンスです。
先日, 同じノルウェーで木造建築物世界1位の高さを更新した
ミョーストーネットについてご紹介させていただきました。
今回取り上げたトリートはそのミョーストーネットが建設される
2019年まで, 木造建築で世界一高い建物として良く知られていました。
元々, パドデフィヨルドと呼ばれる橋のそばに
高層建築を建てるという構想は2005年時点からあったそうです。
それがこう言った形で実現を迎えたのは
エネルギー消費を抑え, サステナブルな開発を行う,
というコンセプトに木という素材がマッチしたからでした。
改めて元世界一の木造高層建築である
トリートの概要からご紹介します。
ザ・ツリーと呼ばれることもあるトリートは
高さ49m14階建ての木造高層建築です。
64室から構想される日本でいう所のマンションですが
一部, 1LDK の住戸を含んで平均65㎡の2LDKがメインとなって構成されます。
それまで32mの高さで木造世界一の高さだったメルボルンのフォルテと呼ばれる
建築を大きく超えて49mの高さを実現したのは木材で十分な強度を保つための
高い技術と設計手法でした。
現世界一の木造建築ビルはノルウェー・ブルムンダルにあるミョーストーネットですが, 今回取り上げるトリートがあるベルゲンという街は
首都オスロから北西へ約500km、飛行機で約1時間の距離にあります。
オスロに次ぐノルウェー第二の都市で, 観光・金融の中心都市でもあるそうです。
国内では魚介の養殖、海運業、石油の生産・供給、海底研究も盛んに行われています。
実はこのトリートの建設にあたって, ミョーストーネットにもなじみのある
建材のサプライヤーが関わっています。
それがモエルフェン(Moelven)と呼ばれる建材メーカーです。
彼らは「北欧スタイルで生きる人の選択肢になる」をモットーに掲げています。
なんとも素敵なポリシーですね。
Moelven 社のHPはコチラ ▶ https://www.moelven.com/
さて、では続いてトリートのデザインや構造の紹介に移ります。 パドデフィヨルド橋の脇に建つ木造高層建築のトリートが1LDK, 2LDKの住居を主として構成されるというのは先ほどお伝えした通りです。 外形は至ってシンプルですが, バルコニーサイド両面がガラスで仕上げられており 建物を支える太い木材が外から見えて存在感がある中で 透明感, 軽さも感じられるようなデザインに仕上げられています。 ただ, 木造とはいえ一種のタワーマンションですから
共用施設ももちろん用意されています。
それが屋上部分の展望テラスと9階部分のトレーニングジムです。
さすがフィヨルド観光の玄関口となるベルゲンの高層建築ですから
目の前に海が目の前に広がるだけでなく, フィヨルドまで見通すことができるそうです。
また,それぞれの住戸もテーブルと椅子を並べてゆったりと過ごせるほど
十分なスペースのある独立したバルコニーを持っています。
さらに居住者専用の公園, リクリエーションスペースも用意されているなど
64室で構成されるマンションとしては十分な設備をそろえていますね。
トリートがこのような形で木造かつ高層で建設することができたのには 木材を構造部材として活用するための技術的な進歩とその機能を 十分に活かす設計手法の2つの要因があります。 その構造部材としての木材として, トリートでは2種類の集成材が使われています。
それがグルーラムとCLTと呼ばれるものです。 まず, グルーラムとは木材を重ね, 接着して作る集成材で 特に形状の自由度が高い点に特徴があります。 ドイツで開発が進められたグルーラムは化学物質に強く, 耐久性も高いことから 建築部材のつなぎ目に使われることが多く, これまで高速道路の橋桁や空港ターミナルといった大型建築にも広く採用されてきました。 他の木材との併用も容易だったことから北欧諸国に普及した結果, 今では様々な使われ方がされているようです。 もう一方のCLTは板を互いに直行するように積み重ねて接着したパネルのことで, クロス・ラミネイテッド・ティンバー(交わり, 重ねられた木材)の略で
CLTと呼ばれています。
日本では直交集成材, 直交集成板という規格上の呼び方が一般的ですが, 断熱性・耐震性の2点で性能が高いことから普及・利用が進んでいるそうです。 これらの素材を軸として, 構造に配慮した設計にも特徴があり それがそのまま外からも見てとれるというのがトリートの面白いところでもあります。 海に面する側面はガラスファサードの内側に互い違いにジグザクと 斜め方向に続く線が見えます。 これは小学校や団地の耐震補強でみられるような物とよく似ていて, 建物の強度を高めるために取り付けられています。 規格化された部材をあらかじめくみ上げて1層, 2層とフロアを積んでいきながら 斜めに筋交いを入れて強い木造建築を可能にしているということですね。
また, 木造に限らず高層建築の設計において問題になるのが
建物が受ける風に対していかに強度を保つか, という耐風性です。
今回は木造だからこその解決策が取られていました。
先ほどご紹介した斜めの筋交いで強度を増す, というのは 一般的手法ですが, トリートの場合は
重しとしてコンクリートを使う
という方法が取られています。
プロジェクトマネージャー曰く, 5階および10階に載せられたコンクリートは
建物を支える構造的役割のあるものではなく, 風に耐えるために
建物自体の重さを重くするためのものだというのです。
木材の強度が高く軽量である, というメリットが転じて
高層建築ではウィークポイントになるところを
他の素材を用いてクリアするという柔軟な発想が取られていました。
こうして構造的な課題を解消すると新たに木材を建築部材に使うことのメリットが
見えてきます。
それが室内空間に与える影響です。
木は空気中の湿気を調整する機能があるのは日本でもよく知られているところですが データによると, 1立米と言ったりもしますけれども1㎥あたり約1トンの二酸化炭素を 吸収するんだそうです。 今回, トリートでは先ほど出てきた斜め方向の筋交いが約1mの太さのあるもので そのまま室内意匠として仕上げられていますから, 木のぬくもりを感じられるだけでなく 室内の環境も保ってくれるということで, 斜めの柱が果たす役割は非常に重要なものになっています。 このプロジェクトで使われたCLT(直交集成材)のほかにもLVL(単板積層材)といった木材の従来の軽くて比較的強度も高いという特質を活かして開発した構造材を駆使して世界各地で木造あるいは鉄骨とのハイブリッド構造の高層ビルプロジェクトが展開されています。 先日ミョーストーネットの回でも紹介しましたが、スウェーデンのヴェステロースで木とコンクリートのハイブリッドで22階建ての高層ビルの建築を進めているそうです。 他にもロンドンではすでに2009年にStadthausと呼ばれる9階建て29mの高さの木造アパートが完成しされているなど, 木造の高層建築のプロジェクトを上げればきりがないほどです。 これもやはり木本来の軽量であると同時に強度が高い、という特徴もさることながら サステナブルな材料であること、工期短縮による建設コストのカットが可能であること、 完成後の断熱性、省エネ性の高さといった環境・経済的側面での魅力によるところが大きいのではないでしょうか。 以前、イタリア・ミラノのバーティカル・フォレストの回で, 高層建築を計画するに至った経緯として開発エリアを中心部に留める, というものがありましたがトリートの開発コンセプトや関連企業のポリシーは共通して開発をサステナブルにする, という点です。 高層建築において, 完成後の環境性能に配慮するという事が主流になる一方で 木を使うことで高層ビルをつくる、都市をつくること自体をエコにしようというのは また一つ非常に興味深い考え方で僕も考えさせられました。 そういった意味でも今回ご紹介したトリートや
先日のミョーストーネットといったプロジェクトは 今後さらに世界各地で木造高層建築が展開されていく上で
大きな影響を与えていることでしょう。
では最後に,トリートの印象的な写真を
ハイライトでご覧ください
はい, ということで今回は以上となります。
いかがでしたか?
高い建物って見てるだけでワクワクしますよね。
YouTubeではこの後、建築パースや参考画像を用いたハイライトを用いて
映像をまとめて行きますのでよかったら見てもらえると嬉しいです。
ビジュアル以外の部分でも今回のトリートのように周辺のトピックを調べていくと色々と面白い情報が出てきて、調べてみようかな、もっと知りたいと思ってもらえたのではないかと思います。
感想や質問、この建物について知りたい、といったご意見はコメント欄でお待ちしてます。
これからも世界の高層建築を紹介していくのでチャンネル登録してもらえたら嬉しいです。
では今回はこの辺で、さようなら!
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